箱庭の星
オンラインゲーム「Granado Espada」のラピス鯖にてもっそり開拓中のイリフィカーデ家門が織りなす、新大陸一大スペクタクル(という名の妄想。)
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【エデュアルド&セルバ】Awkward Cooking 1
「みんな揃ったか?じゃあ『会議』を始めるぞー。」
朝のあわただしい時間が過ぎた頃、イリフィカーデ家門では、久々の「家族会議」が開かれようとしていた。
スカウトのフランシスがいつもどおりの朗らかな声で宣言し、家長のジュリアスが一歩前に出ると、少しざわついていた室内が、一瞬にして厳粛な雰囲気につつまれた。
バラックで一番広い大広間に血族、途中加入を問わず、イリフィカーデ家門に所属するすべての者が集まっている。今日の議題の目玉は言うまでもなく、一昨日家門に加わったばかりのセルバの紹介と、彼女の編入に伴うバラック内の家事の分担変更だった。
フランシスから家門の装備品に対する今月の予算の上限だとか、入手した戦利品の売却額の総額だとか、いろいろ数字の報告もされるが、ここら辺の話は意味を理解して聞いている者の方が少ない。
(実家が商人であるリュミエール、カティス・メルの兄妹、それと新大陸で途中編入してきた手に職のある者たちくらいか)
最年少のビキは、最初こそ真剣に話を聞こうとしていたが、やはり難しい話に付いていけなかったようだ。今はペットのタリーとじゃれて遊んでいる。
食べ物以外には興味の薄いソソや、頭で考えるよりも行動派である白虎なども、目を瞑って真剣に話を聞いているように見えるが、恐らくは寝ている。相槌に見えるのは頭が舟を漕いでいるからだろう。
「…以上が先月の決算と、今月の予算の報告だ。次はクラヴィス、頼んだぜ。」
多くのメンバーにとって退屈な類の話が終わり、フランシスと入れ替わりに、マスケッティアのクラヴィスが前に出る。それに続いて、セルバも立ち上がった。
今まで退屈な話に半分目が死にかけていたメンバーたちの顔に、好奇や戸惑いや恥じらいなど、さまざまな表情が一気に戻ってきた。
今日のクラヴィスはいつものパンツスタイルではなく、アンドレブランドのタイトロングスカートワンピースにショートブーツという、少しフェミニンな装いだった。一方セルバは、ずっと放浪の旅をしていて最低限の服しか持ち合わせていなかったこともあり、今日はクラヴィスから春らしい色のパンツとシャツを借りていた。
手足がスラッと長い美女二人が並ぶ様はとても目に麗しく、ここがまるでアンドレブランド新作発表会のコレクション会場でもあるかのような錯覚を見る者に与えた。
「みんなすでに知っていると思うが、一昨日我が家門に加わったセルバだ。」
クラヴィスが簡潔に紹介すると、セルバも軽く会釈して、いたって簡潔に挨拶した。
「よろしく。」
メンバーたちは拍手をして彼女に歓迎の意を表した。
家長のジュリアスが立ち上がって続ける。
「セルバは私たちもたびたび衝突しているモントロ子爵によって、左腕を失ったそうだ。」
その衝撃的な言葉に、広間は一瞬ざわつく。セルバの左腕には、ややくすんだ色の包帯が、指の先から始まって肘よりも上にまで巻かれていた。
「モントロ子爵の動向を探ることは女王陛下の、ひいては新大陸の発展のためになるだろう。そして何よりも、私たちの家族となったセルバのためになる。これからますます激しい戦いが予想されるが、皆、頼りにしているぞ。」
ジュリアスの力強い言葉に、メンバーは再び大きな拍手を送った。
拍手が収まるタイミングを見計らって、フランシスがみんなに何やら紙を配り始めた。
割り当てられた自席に戻ったセルバは、隣に座っていたアデリーナからそれを受け取り、内容を確認する。
そして、思ったままを口にした。
「……何、これ?」
その物言いが思ったより幼く聞こえたせいか、アデリーナは少し笑いの混じった声で答えた。
「家事の分担表だよ。うちの家では身分も男も女も関係なく、バラックでの仕事も全員するのさ。」
「そうなの…。」
セルバは家長のジュリアスが箒を持って玄関先を掃除しているところや、家事などをしたことがなさそうな雰囲気の女性ウィザードのロザリアが料理をしている姿を想像してみたが、なんだかとてもちぐはぐな感じがした。
「表の見方はわかるかい?」
「えっと…教えてもらえれば助かる。」
あぁ、とアデリーナは頷いた。
「ここが仕事の内容で、こっちにはいつ担当するのかが書いてある。もし次に分担が変わるとしても書いてある場所は同じだから覚えときなよ。今回あんたは…第一・第三週の倉庫内の掃除と、第二・第四週の夕飯の準備だね。…あぁ、エデュアルドも一緒にだ。」
「!!!」
セルバの表情が固まった。
エデュアルドとセルバが婚約者であったことは家門のメンバーに知らされていた。そして、エデュアルドの記憶がモントロ子爵の非道な実験により失われていることも、エデュアルド本人が、記憶を取り戻したいと強く願っていることも。
恐らくは、かつて心を交わしていたセルバと接する機会を増やすことで、何がしか彼に良い影響があればと配慮した結果だろう。
そして単純に、ずっと彼に再び会いたいと願っていたセルバが、エデュアルドの近くにいられることを喜ぶだろうとこの組み合わせを考えた者は思ったに違いない。
そう。彼女自身もそう思っていた。違いないはずだった。
もう一度会って、名前を呼んで、彼が振り返れば、全てが元通りだったはずだった。
─── 彼が自分の名前すら覚えていない。
その事実は他人が想像する以上にセルバの胸を抉り、実際、一昨日家門に合流してから、まだ一度もエデュアルドとは話をしていない。
否、正確には、顔を見ることすらできずにいた。
そのように逃げずに、彼に少しでも自分を思い出してもらえるよう積極的に関わるべきだと人は言うだろうし、実際自分の中にもそういう気持ちはあるのだが、怖いのだ。
とにかく怖くてしょうがないのだ。
もし思い出せなかったら?
もし私のことなど好きでなかったら?
もし他の人を好きになってしまったら?
あまりに惨め。あまりに残酷。
いったい何のために、自分は地を這うような思いをして新大陸にまで来たのか。
そして、想像し得る最悪の事態たちが、決して絶対にあり得ない事ではないという冷たい現実が、セルバの足元を凍りつかせていた。
アデリーナはセルバの様子が変わったことに気付いたが、あえて気付かぬ振りでつづけた。
「今日の夕飯からさっそくお前の担当だな。料理はできるのか?」
アデリーナは、最愛の人の命を二つも同時に失い、そして、復讐のために他人の命を奪うという非道を自ら選びとった人間である。
なぜかセルバには、運命に負けてほしくないと思った。
それが自分勝手な押し付けだと分かっているが、それでも彼女はセルバが前に進むべきだと思った。
「…………え、えぇ。野営が多くて、ここしばらく家庭的な料理とは縁遠い生活だったけど。得意な方よ…」
「そうかい、それじゃあ楽しみにしてるからね。あ、できればメインは白身魚にしておくれ。今日はそんな気分なんだ。」
「…わかったわ。」
宙に溶けてしまいそうな声で、セルバは返した。
解散の号令がかかって、メンバーたちがおのおの自由に席を立ち始めてからも、しばらく彼女は椅子に縛りつけられたかのようにその場から動かなかった。
朝のあわただしい時間が過ぎた頃、イリフィカーデ家門では、久々の「家族会議」が開かれようとしていた。
スカウトのフランシスがいつもどおりの朗らかな声で宣言し、家長のジュリアスが一歩前に出ると、少しざわついていた室内が、一瞬にして厳粛な雰囲気につつまれた。
バラックで一番広い大広間に血族、途中加入を問わず、イリフィカーデ家門に所属するすべての者が集まっている。今日の議題の目玉は言うまでもなく、一昨日家門に加わったばかりのセルバの紹介と、彼女の編入に伴うバラック内の家事の分担変更だった。
フランシスから家門の装備品に対する今月の予算の上限だとか、入手した戦利品の売却額の総額だとか、いろいろ数字の報告もされるが、ここら辺の話は意味を理解して聞いている者の方が少ない。
(実家が商人であるリュミエール、カティス・メルの兄妹、それと新大陸で途中編入してきた手に職のある者たちくらいか)
最年少のビキは、最初こそ真剣に話を聞こうとしていたが、やはり難しい話に付いていけなかったようだ。今はペットのタリーとじゃれて遊んでいる。
食べ物以外には興味の薄いソソや、頭で考えるよりも行動派である白虎なども、目を瞑って真剣に話を聞いているように見えるが、恐らくは寝ている。相槌に見えるのは頭が舟を漕いでいるからだろう。
「…以上が先月の決算と、今月の予算の報告だ。次はクラヴィス、頼んだぜ。」
多くのメンバーにとって退屈な類の話が終わり、フランシスと入れ替わりに、マスケッティアのクラヴィスが前に出る。それに続いて、セルバも立ち上がった。
今まで退屈な話に半分目が死にかけていたメンバーたちの顔に、好奇や戸惑いや恥じらいなど、さまざまな表情が一気に戻ってきた。
今日のクラヴィスはいつものパンツスタイルではなく、アンドレブランドのタイトロングスカートワンピースにショートブーツという、少しフェミニンな装いだった。一方セルバは、ずっと放浪の旅をしていて最低限の服しか持ち合わせていなかったこともあり、今日はクラヴィスから春らしい色のパンツとシャツを借りていた。
手足がスラッと長い美女二人が並ぶ様はとても目に麗しく、ここがまるでアンドレブランド新作発表会のコレクション会場でもあるかのような錯覚を見る者に与えた。
「みんなすでに知っていると思うが、一昨日我が家門に加わったセルバだ。」
クラヴィスが簡潔に紹介すると、セルバも軽く会釈して、いたって簡潔に挨拶した。
「よろしく。」
メンバーたちは拍手をして彼女に歓迎の意を表した。
家長のジュリアスが立ち上がって続ける。
「セルバは私たちもたびたび衝突しているモントロ子爵によって、左腕を失ったそうだ。」
その衝撃的な言葉に、広間は一瞬ざわつく。セルバの左腕には、ややくすんだ色の包帯が、指の先から始まって肘よりも上にまで巻かれていた。
「モントロ子爵の動向を探ることは女王陛下の、ひいては新大陸の発展のためになるだろう。そして何よりも、私たちの家族となったセルバのためになる。これからますます激しい戦いが予想されるが、皆、頼りにしているぞ。」
ジュリアスの力強い言葉に、メンバーは再び大きな拍手を送った。
拍手が収まるタイミングを見計らって、フランシスがみんなに何やら紙を配り始めた。
割り当てられた自席に戻ったセルバは、隣に座っていたアデリーナからそれを受け取り、内容を確認する。
そして、思ったままを口にした。
「……何、これ?」
その物言いが思ったより幼く聞こえたせいか、アデリーナは少し笑いの混じった声で答えた。
「家事の分担表だよ。うちの家では身分も男も女も関係なく、バラックでの仕事も全員するのさ。」
「そうなの…。」
セルバは家長のジュリアスが箒を持って玄関先を掃除しているところや、家事などをしたことがなさそうな雰囲気の女性ウィザードのロザリアが料理をしている姿を想像してみたが、なんだかとてもちぐはぐな感じがした。
「表の見方はわかるかい?」
「えっと…教えてもらえれば助かる。」
あぁ、とアデリーナは頷いた。
「ここが仕事の内容で、こっちにはいつ担当するのかが書いてある。もし次に分担が変わるとしても書いてある場所は同じだから覚えときなよ。今回あんたは…第一・第三週の倉庫内の掃除と、第二・第四週の夕飯の準備だね。…あぁ、エデュアルドも一緒にだ。」
「!!!」
セルバの表情が固まった。
エデュアルドとセルバが婚約者であったことは家門のメンバーに知らされていた。そして、エデュアルドの記憶がモントロ子爵の非道な実験により失われていることも、エデュアルド本人が、記憶を取り戻したいと強く願っていることも。
恐らくは、かつて心を交わしていたセルバと接する機会を増やすことで、何がしか彼に良い影響があればと配慮した結果だろう。
そして単純に、ずっと彼に再び会いたいと願っていたセルバが、エデュアルドの近くにいられることを喜ぶだろうとこの組み合わせを考えた者は思ったに違いない。
そう。彼女自身もそう思っていた。違いないはずだった。
もう一度会って、名前を呼んで、彼が振り返れば、全てが元通りだったはずだった。
─── 彼が自分の名前すら覚えていない。
その事実は他人が想像する以上にセルバの胸を抉り、実際、一昨日家門に合流してから、まだ一度もエデュアルドとは話をしていない。
否、正確には、顔を見ることすらできずにいた。
そのように逃げずに、彼に少しでも自分を思い出してもらえるよう積極的に関わるべきだと人は言うだろうし、実際自分の中にもそういう気持ちはあるのだが、怖いのだ。
とにかく怖くてしょうがないのだ。
もし思い出せなかったら?
もし私のことなど好きでなかったら?
もし他の人を好きになってしまったら?
あまりに惨め。あまりに残酷。
いったい何のために、自分は地を這うような思いをして新大陸にまで来たのか。
そして、想像し得る最悪の事態たちが、決して絶対にあり得ない事ではないという冷たい現実が、セルバの足元を凍りつかせていた。
アデリーナはセルバの様子が変わったことに気付いたが、あえて気付かぬ振りでつづけた。
「今日の夕飯からさっそくお前の担当だな。料理はできるのか?」
アデリーナは、最愛の人の命を二つも同時に失い、そして、復讐のために他人の命を奪うという非道を自ら選びとった人間である。
なぜかセルバには、運命に負けてほしくないと思った。
それが自分勝手な押し付けだと分かっているが、それでも彼女はセルバが前に進むべきだと思った。
「…………え、えぇ。野営が多くて、ここしばらく家庭的な料理とは縁遠い生活だったけど。得意な方よ…」
「そうかい、それじゃあ楽しみにしてるからね。あ、できればメインは白身魚にしておくれ。今日はそんな気分なんだ。」
「…わかったわ。」
宙に溶けてしまいそうな声で、セルバは返した。
解散の号令がかかって、メンバーたちがおのおの自由に席を立ち始めてからも、しばらく彼女は椅子に縛りつけられたかのようにその場から動かなかった。
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