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箱庭の星

オンラインゲーム「Granado Espada」のラピス鯖にてもっそり開拓中のイリフィカーデ家門が織りなす、新大陸一大スペクタクル(という名の妄想。)
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【エデュアルド&セルバ】Awkward Cooking 2

エデュアルドは、スカウトのフランシスがガリ版で印刷した家事分担表を見ていた。

どうやら今回の仕事は、第一・第三週が倉庫内の掃除で、第二・第四週が夕食当番らしい。隣の席に座っていたグラシエルロは朝食当番が割り当たってしまったらしく、「最悪だぜ!」と頭を抱えて呻いている。

イリフィカーデ家門に編入してまだ四ヶ月程だが、それでも一~二か月に一回のペースで家事の分担がローテーションしていくらしいということは分かった。

(今回は朝一でする仕事はないようだな…。)

エデュアルドは内心安堵していた。

家門に合流してすぐの仕事は、朝の玄関掃除と武器の手入れだったのだが、死者の大地にいる間にすっかり夜型の生活(正確には、日の昇らない特殊空間にいたせいで、体内時計がすっかり狂っていただけなのだが)になってしまっていた彼は、大いに苦労することになった。

朝一の玄関掃除をするために夜起きていて、仕事が終われば夕方まで寝るという、それこそ本末転倒な生活スタイルになってしまったのである。

そんなわけで、最近ようやく人並みの活動時間で寝起きできるようになってきた彼ではあるが、まだまだ家門の中では下から数えた方が早いお寝坊さんであった。


(今回、一緒に仕事をするのは……)

エデュアルドは、表を眼で追った。
追った視線が、はたと止まる。



セルバ



確かにそう書いてある。


おぼろげな記憶の断片の中で、「自分には婚約者がいたらしい」というところまでは思い出していた彼だったが、その人の名前や顔をどうしても思い出せずにいた。

家門のメンバーたちとモントロを追跡していく中でしばしば目撃していた彼女が、まさか自分の婚約者だと思っていなかった彼は、顔にこそ出さなかったもののかなり驚いたものである。


エデュアルドはセルバの編入を歓迎していたが、同時に申し訳ない気持ちに胸を痛めていた。


彼女の目を見れば、いかに自分を案じ、慕ってくれているかが痛いほど伝わってくる。そして同時に、彼女の絶望に似た悲しみも伝わってくるのだ。

無理もあるまい。

エデュアルド本人も、記憶を失っていると気づいた時には死すら考えるほどに混乱した。まして彼女は、エデュアルドの仇を討とうという信念だけで新大陸に渡り、たった一人で今まで戦い抜いてきた。

その彼女が生きている自分に会ったのだ。当然、以前と同じあたたかな関係を望むのはごくごく自然なことだろう。


しかし自分は、その思いに応えられない。


いくら知識として「婚約者のセルバ」ということが分かっても、かつてとまったく同じ気持ちを思い出すことは出来ない。

「顔も名前も知らない人」をいきなり愛することは、誰にとっても不可能なことであった。



「エデュアルドさん、ちょっといいですか?」

目を瞑って思考の波にゆられていたエデュアルドの意識は、アイラワンの声で現実に急浮上した。

「どうした?」

アイラワンは、エデュアルドが寝ているとでも思っていたのであろう。思いのほかすぐに返事が返ってきて、少し安心したような顔をした。(実際、家門会議で最初から最後までエデュアルドが起きているためしはほとんどない。)

「今週、俺とエミリアさんが食品の買い出し係なんです。それで、もうそろそろ市場に行くので、夕食に必要なものも買ってきてしまおうと思ってるんですよ。」

「あぁ…そういうことか。少し待ってくれるか?今、セルバと相談してくる。」

「わかりました!十一時には出ますので、それまでに声をかけてください。」

アイラワンのさわやかな笑顔に送り出されて、エデュアルドは席を立った。



「セルバ、少しいいか?」

セルバの席に近づくと、彼女は椅子に深く腰掛けて、俯いていた。横髪が顔を覆っていて表情まで読み取れないが、混乱しているような、戸惑っているような感じを受けた。

「…おい、セルバ。」

声をかけても全く動く気配のないセルバを不審に思い、エデュアルドは床に立て膝をついて下から彼女の顔を覗き込んだ。

彼女の瞳はうつろで、周囲の音もまったく聞こえていないような雰囲気だ。ぼーっと宙を見つめている。

「セルバどうした?具合が悪いのか?」

熱でもあるのかと思い、エデュアルドはセルバの額に手を当ててみた。



と、




「っッッ……!!!???」

ガターン!と派手な音をたてて、セルバが座っていた椅子が倒れた。
驚いた彼女が、いつもの機敏な動きで飛び退ったせいだ。


「なっ…何!?エデュアルドっ…!」

彼女は顔を真っ赤にしながら、無駄に大きな声でそれだけ言った。

瞳孔がキュゥッと、見開かれた瞳の真ん中で小さくなっている。どうやら本当に、心底驚いたらしい。


おかしな話だが、エデュアルドはなぜか「かわいい」と思った。

どこか近寄りがたいイメージのある彼女が、表情を崩して驚く様──そう、まるで尻尾を踏まれて飛び上がったネコ…とでも表現すべきか──を見せたことが、なんだかとても愛おしく感じたのである。

「お前こそどうした、ずいぶんボーッとしていたぞ。」

「え、エデュアルドには関係ない!」

先程まで人に満ちていた大広間は、偶然なのか、それとも気を遣われたのか、いつのまにか無人になっていた。

エデュアルドは目の前で眉根を吊り上げる彼女を見て、自分以外に誰もいなくてよかったと安心している自分に気づいた。

(こんな姿、他の奴に見せたら…)



見せたら…?
なんだというのだろうか。


我ながらおかしなことを考えるものだと自嘲気味に小さく笑うと、エデュアルドは本題に頭を切り替えた。

「セルバ、今日の夕食から俺とお前で支度をすることになるが、なにかメニューで考えているものはあるか?」

「…え?あ、あぁ、その話か。」

セルバは安心したような、少しがっかりしたような、複雑な表情をした。

「さっきね、えーと…名前が出てこない…あの眼帯をした女の人。」

「アデリーナか。」

「そう、アデリーナからディナーのメインは白身魚がいいってリクエストを受けた。だから、メインは白身魚のムニエルにしようと思ってるけど、あとは特に決めてないわ。」

「ふむ…。ならばあとは常備野菜でスープでも作ればよさそうだな。他に女子や子供たちのデザートに、クレープでも焼けば上々だろう。」

「スープはトマトベースにして、ジンジャーとガーリックも入れたいんだけど、ある?」

「ガーリックはあったはずだ。ジンジャーはわからないな…。今見てくる。なければ買出し組に頼むとしよう。あとはいいか?」

「うん、今日はそれでいいと思う。」

「わかった。支度は四時半頃から始める。大所帯だからな、量が半端じゃないんだ。」

「わかったわ。」

じゃあ、またあとでとややぎこちない微笑みを交わし、至って事務的な会話を済ませたエデュアルドは大広間を後にした。

ジンジャーの在庫を確認しようと、厨房に向かう廊下の途中でビキに会った。

「エデュ兄聞いて!これから白虎兄ちゃんとソホ兄ちゃんと一緒に、じいちゃんのところに遊びに行くんだ!」

嬉しそうに報告してくる少年をエデュアルドは目細めて見つめた。

自分には弟がいるということを、いろいろ手を尽くして調べてくれている家門メンバーから聞いている。未だ行方は不明だが、彼もこの新大陸に来ているらしい。

そのせいかはわからないが、エデュアルドは子供が好きだった。

「そうか、よかったな。だが夕飯までにはちゃんと戻って来い。今日の夕飯はすごいぞ?クレープ付きだ。」

ビキの顔がパァッと明るくなった。

「すっげー!ぼく、生クリーム大好き!ぼくのやつにはいっぱい入れてね!」

イチゴも大きいやつが入ってたらいいなぁとはしゃぐビキに、「あぁ」と微笑んで頭を撫でてやると、ビキはくすぐったそうに笑った。

「ねぇエデュ兄。何かいいことあったの?」

そうビキに言われて、驚く。

「……なぜそう思う?」

「だって、いつも優しいけど、今日はもっともーっと優しいよ!」

エデュアルドは、そうか…と小さくつぶやいた。
もしも、何かあったのだとすれば。




─真っ赤になったセルバの顔が、鮮やかに瞼の裏に写った。




「さっき、可愛いネコに会ったからだろう。」




記憶を取り戻すこと。
過去を取り戻すこと。

それだけを求めて生き延びてきた。


でも、もしかしたら…。


エデュアルドの心に、小さな、しかし確かな何かが生まれた。
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箱庭の星について
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イリフィカーデ家
性別:
非公開
自己紹介:
バラックメンバーの名前が、全部某元祖ネオロマのキャラ名だったりするのは中の人の趣味です。万年まったり開拓中につき、まったりなお友達募集中。中の人は社会人→学生なので、暇そうに見えるけどちょっと忙しいですwあまり細かいことは気にしませんが、最低限のマナーは大事よねと思っている今日この頃。
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